特集:女性の悩み@ 月経異常と月経困難

月経は、25〜38日を周期とし、3〜7日間の出血が見られるものです。
月経の周期や出血の程度にはかなり個人差があります。
特に、思春期や更年期の場合は、しばしば月経周期が不安定になります。
これは生理的な現象で、普通は病的なものではありません。

月経異常とは、

@「月経周期・出血量・期間の異常」
A「月経前緊張症」「月経困難症」
などを指す。

月経周期や期間の異常(月経不順)は、
子宮や卵巣の発育不全、子宮の病気などが影響しておこることがあります。
心理的ストレスや環境変化などで月経周期が乱れることもあります。

月経異常の種類

@月経量の異常 →過多月経、過小月経
A月経周期の異常 →頻発月経、稀発月経
B初潮期・閉経期の異常
C無月経・排卵障害など
D機能性出血
E月経随伴症状 →月経前緊張症、月経困難症

中高年以上の人は要注意
@「月経前緊張症」
月経開始の3〜10日前におこる、情緒不安定や頭痛、むくみ、体重増加などの症状が見られる。
「月経困難症」は、月経が始まってからおこるもので、下腹部痛や下腹部の圧迫感・膨満感、腰痛、吐き気などの症状が見られる。

「月経前緊張症」「月経困難症」で、日常生活に支障をきたす場合は、治療が必要 → 東洋医学(漢方薬・鍼灸)は、特に有効です!

 若い人の月経異常や月経困難症は、ストレスなどの影響も強く、多分に心身症的な要素がありますが、
中高年以上の場合は、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が原因になっていることが多いので注意しなければなりません。
いずれにせよ、月経異常や月経困難症などが長く続くような時は、治療が必要 → 東洋医学(漢方薬・鍼灸)は、特に有効です!


月経周期に関連した下腹部痛
症状の発現時期  ●排卵期〜月経直前まで(月経開始と共に軽快ないしは消退)。
症状の特徴     軽度の下腹部痛、腰仙痛、腹部膨満感、浮腫、乳房腫脹、イライラ、食欲減退、性欲亢進または低下、抑うつなどのさまざまな心身症状。
備考         多くは月経前緊張症ないしは月経前症候群である。


症状の発現時期  ●月経開始前〜月経終了期(月経開始の1〜2日前から症状が出る場合や、月経終了後も2〜3日症状が続く場合もある)。
症状の特徴     下腹部の強い疼痛。痛みは緊張性で腰背部や大腿部に放散したり、けいれん性で激痛になることもある。痛む場所が一定のことが多い。
備考          若い女性で、比較的短期間に軽快する場合は原発性月経困難症のことが多い。
             30歳以上、月経ごとに悪化する場合は子宮内膜症の影響による月経困難症を疑う。
             30歳以上、月経開始後1〜2日で痛みがピーク、緊張性のかなり強い痛みの場合は子宮筋腫の影響による月経困難症が疑われる。



月経痛には「駆お血剤」を多用
 漢方では、月経に関連した症状を、主に「お血」によっておこるとみなして、「駆お血剤」などを用います。
 何らかの原因疾患がある時は、 通常は西洋医学的な治療を優先しますが、この場合も漢方薬を併用することが少なくありません。また、特別な原因疾患がない月経異常や月経困難症には、漢方単独療法がよく行われます。
 比較的体力があって胃腸も丈夫な人なら、顔色が赤ければ桃核承気湯、 便秘気味なら大黄牡丹皮湯、不安や憂鬱感が強ければ通導散を用います(チャート図参照)。
 体力が普通の場合は、唇が暗紫色・肌荒れがあって便秘がなければ桂枝茯苓丸、皮膚がカサカサしているようなら温清飲、突然上半身がほてる時は加味逍遙散などを用います。
 体力がなくて胃腸も弱い場合は、軽いむくみ・めまい・耳鳴りがあれば  当帰芍薬散、口渇・下痢などがあれば温経湯、皮膚のシミが目立って貧血気味なら、四物湯やきゅう帰膠がい湯を用います。
  これらの処方は、月経異常・月経困難症などに有効ですが、服用後に症状がかいぜんしていく速度は人によってかなり異なり、症状の波を繰り返しながら徐々に軽快していくこともあります。
 いずれにせよ、症状が消えてもすぐ漢方薬の服用を止めずに、しばらくの間継続使用することが大切です。



◆月経困難・月経前緊張症に用いる主なチャート◆


主要症状
月経時の腰痛・下腹部痛・月経前の不安感・ゆううつ感・頭痛など


あなたの体力は?   ない 疲れやすい(虚証)        
              ふつう(中間証)
              比較的ある 胃腸も丈夫(実証)         


あなたの症状は?  貧血・皮膚のシミ-きゅう帰膠がい湯・四物湯
             口渇・下痢・冷え-温経湯
             軽いむくみ・めまい・耳鳴り-当帰芍薬散
             

              突然上半身がほてる・不安感が強い-加味逍遙散
              皮膚がカサカサしている・のぼせ -温清飲
              肌荒れ・便秘はない・むくみ-桂枝茯苓丸・折衝飲

               不安・ゆううつ感が強い-通導散
               唇が暗紫色・便秘気味・出血・充血-大黄牡丹皮湯
               顔色が赤い・のぼせ-桃核承気湯



つわり・妊娠悪阻
●漢方薬が効果的
 つわりは、妊娠5〜6週頃から感じる吐き気や食欲不振、頭痛、悪心などの症状を指します。また、 特に重症のつわりは、妊娠悪阻と呼ばれます。
 つわりや妊娠悪阻はかなり個人差があり、ほとんど症状が現れない人もいます。つわりがおこった場合も、通常は10週目頃までにピークとなり、それ以降は軽快・消失します。
 つわりや妊娠悪阻の西洋医学的な原因ははっきりわかっていませんが、寛保では主に「水」や「血」のバランスの乱れによっておこるとみなします。
 そして、「水」や「血」をひ是正する処方を用いることで、優れた治療効果を得ています。

●吐き気も漢方薬で軽快する
「虚証〜中間証」で、胃の方から突き上げてくるような吐き気がある場合は小半夏加茯苓湯などが効果的です。
また「中間証」で、尿の出が悪く、頭痛や口渇があり、水を飲むとすぐ吐いてしまうような場合は五苓散が用いられます。
「虚証」の場合は、胃腸虚弱で、口中に薄い唾液がたまりやすければ人参湯、汗をかきやすく、軽い吐き気があれば桂枝人参湯などを用います。


不妊症
●まず専門的な検査を行う
不妊症にさまざまな原因がありますが、原因が女性側にある場合は、子宮発育不全・子宮頸部狭小・子宮内膜炎・卵管通過障害・卵巣腫瘍その他のさまざまな障害・病気が関与していることがすくなくありません。
 産婦人科で不妊症の専門的な検査を行って、何らかの身体的な異常(器質的異常)が認められた場合は、西洋医学的な治療を優先するのがふつうです。
 漢方療法は、どこにも身体的な異常がないのになかなか妊娠しない「機能的な不妊」が対象となります。
 不妊の漢方薬では、当帰芍薬散が最もよく使われます。この処方は「虚証」タイプで冷えが強く、腹部のポチャポチャ音がある場合などに用いられます。月経異常がある人の不妊症にも効果的です。
 「中間証」の場合は、加味逍遙散や折衝飲などが使われるほか、最近は、芍薬甘草湯も用いられるようになっています。
また「実証」の場合は、頭痛・のぼせ・下腹部の抵抗感と圧痛などがあれば桂枝茯苓丸が用いられます。


   ◆つわり・妊娠悪阻に用いる主な処方◆
証                  目安となる症状                 処方名
虚証〜中間証   尿量減少・水を飲むとすぐ吐く・口渇・頭痛      五苓散・二陳湯
            腹部から突き上げるような吐き気           小半夏加茯苓湯

虚証         胃腸虚弱・口中に薄い唾液がたまりやすい      人参湯
            多汗・軽い吐き気・頭痛                 桂枝人参湯
            激しい嘔吐・みぞおちの抵抗感と圧痛         半夏瀉心湯・乾姜人参半夏丸



     ◆不妊症に用いる主な処方◆
 
証        目安となる症状                        処方名
実証      下腹部の抵抗感と圧痛・のぼせ・月経異常      桂枝茯苓丸
         臍下の圧痛・便秘傾向・月経痛が強い         桃核承気湯
中間証     のぼせ・食欲不振・肩こり・月経異常          加味逍遙散
         臍下の抵抗感と圧痛・月経痛が強い・腹痛      折衝飲
         けいれん性疼痛・腹部痛・月経痛            芍薬甘草湯
虚証      冷え・腰痛・胃部のポチャポチャ音・月経異常     当帰芍薬散
         右記と同様の症状で、皮膚乾燥・胃腸虚弱      温経湯
         疲労感・低血圧・たちくらみ・顔色不良         補中益気湯
         胃腸虚弱・月経異常・手足の冷え            人参湯


更年期障害
●西洋薬では効果が不十分
 女性の更年期というのは、通常は月経がなくなる閉経時を中心に、その前後の数年間を指します。平均的な閉経年齢は49歳〜50歳なので、その前後の42歳〜55歳程度の間が一般的な女性の更年期といえましょう。
  女性の更年期は、卵巣機能が衰退し始めて、女性ホルモンなどの体内バランスが大きく変動してきます。
 その影響で、精神的・身体的な多種多様な自覚症状、いわゆる不定愁訴が見られるようになり、これを「更年期障害」と呼んでいます。
  更年期障害の症状は、動悸・のぼせ・手足のほてり・疲労感・喉のつかえ・肩こり・腰痛・ 便秘・イライラ・めまい・不眠など極めて多彩です。
 多くの場合、こうした症状が、何種類も入れかわり立ちかわり現れてくるのが特徴です。
 西洋医学では、更年期障害に対して女性ホルモン(エストロゲン)を補ったり、精神安定剤を投与するなどの治療を行いますが、十分な効果が得られないことも少なくありません。

●更年期障害は漢方薬が最適
 日本の漢方では、古くから「血の道症というとらえ方があります。これは、女性特有の生理的変動などによるさまざまな心身症状を指すもので、治療面でも、こうした症状に効果がある多数の処方が用意されています。
西洋医学でいう更年期障害も、「血の道症」の一種といえます。
 漢方医学では、「血の道症」を、主に「血」と「気」のバランス失調によるものとみなし、それを是正する処方を用います。
 更年期障害は、漢方が最も得意とする分野のひとつで、産婦人科の医師も更年期障害の治療に漢方薬を多用しています。


◆更年期障害に用いる主なチャート◆
主要症状
多彩な不定愁訴→動悸・のぼせ・手足のほてり・疲労感・肩こり・腰痛・便秘・イライラ・不安感・不眠など

                

あなたの体力は?        あなたの症状は?

ない 
疲れやすい(虚証)        虚弱体質・貧血・冷え症                           当帰芍薬散・温経湯
                   体力がやや低下・耳鳴り・めまい・動悸・のぼせ・動悸感         半夏白朮天麻湯・釣藤散
                   精神症状が強い・のぼせ・手足の冷え・月経異常             柴胡桂枝乾姜湯・甘麦大棗湯

ふつう(中間証)          神経質傾向・イライラ・不眠傾向                       加味逍遙散・抑肝散

比較的ある
胃腸も丈夫(実証)        月経異常・のぼせ・肩こり・下腹部に抵抗感と圧痛がある        桂枝茯苓丸
                    のぼせ・めまい・抑うつ感                          女神散
                   睡眠障害・口の中がねばる・便秘傾向                   柴胡加竜骨牡蠣湯
                   強いのぼせ・不眠・イライラ                          温清飲
                   便秘傾向・臍下に抵抗感と圧痛                       桃核承気湯


●漢方は心身の両面に効果
 更年期障害の漢方療法では、比較的体力があり胃腸も丈夫の場合、症状が強くて便秘傾向なら桃核承気湯、強いのぼせや不眠、イライラがあれば温清飲などを用います

また、症状が頑固で睡眠障害や口中のねばりなどがあれば柴胡加竜骨牡蠣湯、のぼせ・めまい・抑うつ気分などが強ければ女神散などを用います。
そのほか、下腹部に抵抗感と圧痛がある「お血」状態で、月経異常がある場合は桂枝茯苓丸が多用されます。
 体力が普通の場合は神経質傾向で、手足のほてり・イライラ・不眠などの更年期症状があれば加味逍遙散や抑肝散を用います。
 加味逍遙散は、更年期障害でよく使われるもので、心身両面の治療効果が期待できます。

●味覚・嗅覚の変調にも有効
 体力がなくて胃腸も弱い場合は、精神症状が強くてのぼせ・手足の冷え・月経異常などがあれば柴胡桂枝乾姜湯、同様の症状で不安感・イライラ・不眠などが目立つ時は甘麦大棗湯が用いられます。
 また、めまいが強くて耳鳴り・動悸・のぼせ・動揺感があれば半夏白朮天麻湯や釣藤散などを用います。
 虚弱体質で貧血・冷え症などがあれば当期芍薬散や温経湯を用います。
  その他、更年期には味覚や嗅覚の異常が起こることも多いので、そのような時は清熱補気湯、八味地黄丸、麦門冬湯などを用います。



冷え症
●婦人科医も漢方薬を多用
 西洋医学には、「冷え性」という病気はありません。
 何らかの病気があり、その影響で冷えが起こるような時は、原因となっている病気の治療が優先され、冷えそのものの治療はあまり行われません。
 いわゆる「冷え性」は、特別な病気がないのに手足などが冷えるもので、はっきりした「病気」ではないため、西洋医学ではなかなか十分な対応ができないのです。
 したがって、冷え症も、漢方療法が得意とする分野で、現在では多くの婦人科医などが、漢方薬を主体にした治療法を行うようになっています。

●「お血」と「水毒」でおこる
 漢方では、冷え症を、@全身的な冷え、A胃腸機能の低下に伴う「水毒」による冷え、B「お血」による冷え、C「気逆」による冷え・のぼせ、」などに大別します。
  @の全身的な冷えは、体全体の新陳代謝が低下し、脈も弱く、青白い顔をしているような人に多く、男性や高齢者などにもよく見られます。
  Aの「水毒」による冷えは、胃腸虚弱で腹部にポチャポチャ音などがあるもので、やはり男性にもみられます。
  Bの「お血」による冷えは、胃腸が丈夫で便秘傾向のある女性に多く見られます。「お血」症状は、「血」が停滞しておこるもので、日本では昔から「古血」などとも呼ばれました。
 西洋医学的には、ホルモン・バランスや、血流の分布を調節する血管運動神経のバランスが乱れているためにおこるものとみなされます。
 「お血」の場合は、下腹部に抵抗感と圧痛があるのが普通で、このような人の冷えでは、のぼせや動悸などを伴うことが少なくありません。
 また、Cの「気逆」による冷えも、冷えとのぼせが混在しています。

●冷えのタイプをみて処方を選ぶ
 比較的体力がある人の冷えは、「お血」によるものが少なくありません。
 下腹部に抵抗感と圧痛があり、のぼせ・肩こり・月経異常などを伴う時は桂枝茯苓丸、同様の症状が強くて、便秘や不安・不眠などがあれば桃核承気湯を用います
 体力が普通の場合も、冷えとのぼせの混在型が多く、下半身の冷えと上半身ののぼせ・腰痛・筋肉痛などがあれば五積散、冷え・のぼせ以外の不定愁訴も目立ち、更年期の女性なら加味逍遙散などを用います。
 体力がない「虚証」の場合は、「お血」に「水毒」が絡んだ冷えや、「水毒」が強い冷え、全身的な冷えが多くみられます。
 「虚証」の人の「お血」では、下腹部痛がみられることが多く、これに冷え症・貧血・疲労感などがあれば 当期芍薬散、冷え性・貧血・疲労感などがあれば当期芍薬散、冷え性・月経不順・手のひらや足裏のほてり・皮膚の乾燥などがあれば温経湯などを用います。
 「水毒」が強いものでは、腰以下の冷えが強くて尿量が多ければ苓姜朮甘湯、冷えに関節痛を伴っていれば桂枝加朮附湯などを用います。
 また、全身的な冷えで、腹痛・頻尿・下痢やめまい・動悸があれば真武湯、腹痛・腹部膨満感などがあれば大建中湯などを用います。
 そのほか、高齢者で特に下半身が冷えるような場合は、八味地黄丸なども用います。



冷え症の漢方的な分類
冷え症のタイプ        特徴
全身的な冷え     全身の新陳代謝の低下によるもの。脈が弱くて青白い顔の人や、高齢者などに多い。
水毒による冷え    胃腸機能の低下に伴うもので、腹部のポチャポチャ音などがある。
お血による冷え    「血」の停滞によるもので、下腹部に抵抗感と圧痛があり、のぼせや動悸を伴うことが多い。胃腸が丈夫で便秘傾向のある女性なども多い。
気逆による冷え    「気」が逆流して上昇する気逆によるもので、冷えとのぼせが混在する。


◆冷え性に用いる主な処方チャート◆
主要症状 手足の冷え・全身の冷え・腰や下半身の冷え・のぼせ・倦怠感など

あなたの体力は?        あなたの症状は?
ない 疲れやすい(虚証) ---高齢者で特に下半身が冷える       八味地黄丸
                  腹痛・腹部膨満感              大建中湯
                  全身的な冷え、腹痛・頻尿・下痢・めまい・動悸  真武湯・桂枝人参湯
                  関節痛・むくみなどを伴う          桂枝加朮附湯・防已黄耆湯
                  腰以下の冷えが強い・尿量が多い     苓姜朮甘湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯
                  手のひらや足裏のほてり・皮膚の乾燥・月経不順   温経湯
                  貧血・顔色不良・疲労感・下腹部痛    当帰芍薬散
 
ふつう(中間証)        冷え・のぼせ以外の不定愁訴が多い   加味逍遙散
                  下半身の冷えと上半身のぼせ       五積散
 
比較的ある
胃腸も丈夫(実証)      のぼせ・肩こり・便秘・不安・不眠・下腹部に抵抗感と圧痛  桃核承気湯
                  のぼせ・肩こり・月経異常・便秘はない下腹部に抵抗と圧痛  桂枝茯苓丸



貧血
●鉄欠乏性貧血が多い
 西洋医学でいう「貧血」には、さまざまなタイプがあります。最も多いのは、赤血球(血液の主要成分)の色素を構成する鉄分の欠乏による「鉄欠乏性貧血」です。この貧血は、特に女性に多く見られます。
 そのほか、赤血球の寿命が病的に短くなる「溶血性貧血」、赤血球をつくるのに必要なビタミンB12や葉酸の欠乏でおこる「悪性貧血」、何らかの原因で骨髄の造血能力が低下する「再生不良性貧血」などがあります。
 また、悪性腫瘍や白血病、消化性潰瘍などの何らかの病気の影響で貧血状態になることもあります。
 これらの貧血は、西洋医学的な「病気」であり、治療面でも、西洋医学的な治療を優先する必要があります。

●「病気」でない貧血も多い
 一方、西洋医学的には「病気」といえない貧血もあります。
 はっきりした異常や病気がないのに「顔色が青白い」「生気がない」「立ちくらみがする」といった症状がいつも見られるケースで、「仮性貧血」とも呼ばれます。
 漢方療法の主な対象となるのは、この仮性貧血です。
 また、鉄欠乏性貧血などの場合も、西洋薬の鉄剤にしばしば漢方薬を併用しています。

●漢方薬で「血虚」を是正する
 漢方では、貧血様の症状は「血」が不足した「血虚」によっておこるとみなします。
 したがって、治療面でも、「血虚」を是正する処方を主体にします。
 西洋医学的検査を行ってはっきりした異常がない場合、体力がふつうで、不安・不眠・子宮出血などを伴っていれば温清飲、胃部のポチャポチャ音・のぼせ・めまい・尿量減少などを伴っていれば苓桂朮甘湯などを用います。
 また、食欲不振・微熱・倦怠感などがあれば小柴胡湯を用います(小児の貧血も少なくない)。
 体力がない場合は、冷え性・頭重感・排尿回数が多くて尿量減少などを伴っていれば当期芍薬散、不安・心悸亢進・不眠などがあれば加味帰脾湯などを用います。
 病後や虚弱体質で不定愁訴・腹痛などがある場合は、十全大補湯がよく用いられます。
 不正性器出血や月経異常があり、めまい・四肢の冷えなどがあればきゅう帰膠艾湯、皮膚乾燥・自律神経失調状などがあれば四物湯などを用います。
 そのほか、鉄欠乏性貧血の場合は、貧血症状の改善だけでなく、鉄剤による胃腸障害の軽減を目的をして四君子湯などを鉄剤に併用します。

◆貧血症に用いる主なチャート◆

主要症状
顔色が青白い・生気がない・立ちくらみ・月経不順・冷え症など

あなたの体力は?          あなたの症状は?
ない(虚証)           月経異常・不正性器出血・皮膚乾燥・自律神経失調症・めまい・四肢の冷え    四物湯・きゅう帰膠艾湯
                  病後・虚弱体質・不定愁訴・腹痛         十全大補湯・六君子湯
                  不安・心悸亢進・不眠      加味帰脾湯
                  冷え症・めまい・顔色不良・尿意頻回で尿量減少・月経異常      当帰芍薬散

ふつう(中間証)        食欲不振・微熱・倦怠感     小柴胡湯
                  胃部のポチャポチャ音・のぼせ・尿量減少     苓桂朮甘湯 九味檳榔湯
                  不安・不眠・子宮出血       温清飲・連珠飲