泌尿器に関する症状と漢方薬について

泌尿器領域とは、西洋医学的には腎・尿路・男性生殖器系を指す。

漢方的に、五臓に当てはめてみると、

一部「脾」の概念が入るが、
ほぼ「腎」に相当するように思われる。
この腎の衰え、機能低下は腎虚と表現され、泌尿器科領域では、頻尿、尿失禁、陰萎などが腎虚と結びつく。

気血水で考えると、

気の衰え(気虚)は、腎虚、脾虚に通じ、前述の腎虚の症状を示すものと考える。
気の鬱滞(気鬱)は、尿路不定愁訴に結びつく。
血の鬱滞は於血と表現されるが、
慢性前立腺炎や前立腺肥大症に伴う骨盤内うっ血症候群(排尿障害、会陰部痛、下腹部不快感など)は、
於血の症状と考えられる。

排尿困難、浮腫などは水の停滞(痰飲)すなわち水毒と考えられる。

これらの病態に対し、例えば於血に対しては駆於血剤を用いるように、

適切に漢方薬を用いれば、回復、治癒の方向にすすむ。

結石の疼痛に対して、芍薬甘草湯を用いる。→これは、薬理作用を念頭に置いた使用法である。

泌尿器科領域で、漢方が優先あるいは極めて有効な疾患を上げると、

@尿路不定愁訴(尿道症候群、慢性非細菌性前立腺炎、神経性頻尿症など)、
A性機能障害

これに順ずるものとして、
慢性腎炎、人工透析中の愁訴、前立腺肥大症、男性不妊症、尿失禁、尿路の線維化症などが上げられる。

西洋医学、新薬との併用で、漢方薬を用いてよい場合は、
@尿路結石、
A慢性尿路感染症、
B副腎疾患
などである。



@頻尿、尿意頻数

漢方の得意とする分野
@夜間頻尿
A前立腺肥大症、
B昼間の頻尿では神経性頻尿症、
C昼夜を問わずきたす膀胱炎、慢性前立腺炎、
D膀胱機能障害(不安定膀胱を含む)

前立腺肥大症は、前立腺癌との鑑別が重要。
夜間の頻尿のほか、尿意切迫、会陰部の不快感なと初期症状のみでは鑑別が困難であり、専門医による診断が必要となる。
膀胱機能障害も排尿状態の検査、膀胱内圧測定などの検査をすることが望ましい。

神経性頻尿症は閉経期以降に多く、昼間のみの頻尿で、夜間に尿意を催さないことが特徴である。

『諸病源候論』の諸淋候に、「小便が出し渋り、痛む症状を淋と表現している。」
淋には五種類あり、
@石淋(砂淋ともいい、結石のこと)、
A気淋(神経性頻尿症)、
B膏淋(膿尿)、
C労淋(過労のために体内の水分が少なくなり、尿量が減じて濃厚となり、排尿痛をうったえるもの)
D血淋(頻尿に血尿を伴うもの)
である。



B多尿

多尿とは文字通り1日の尿量が増加した場合をいう。

多尿で漢方の得意とするものは、
@糖尿病、
A腎疾患として腎炎、ネフローゼ、
B習慣性多飲

治療の目的としては、下半身の衰え(虚)があれば、これを補い、
水毒(水分の体内停滞などの調節不全)があれば利水(利尿ではない、水が出過ぎるときもこれを調節する)をはかり、
冷えがあれば体を暖め、合わせて胃腸機能の亢進、調和をはかる。



C乏尿、無尿

尿量の減少が乏尿。
膀胱に尿がたまっていない状態が無尿。
膀胱に尿があるが、出ない状態は尿閉。

尿閉については古くは紀元4世紀ごろ、
張苗により葱を用いて導尿したと伝えられているが、
現在ではカテーテルでの導尿が通常である。

無尿には、
@心疾患、血圧低下などの全身状態から生じる腎前性無尿、
A腎自体の障害による腎性、それに尿路の通過障害による腎後性無尿

漢方の得意なものは、腎前性と腎性である。

腎後性無尿は、泌尿器科的処置が優先される。



D血尿

血尿は泌尿器科領域のあらゆる疾患と関係がある。
症状を伴う血尿と、
伴わないいわゆる無症候性血尿とに
大別することができる。

無症候性血尿は、その中に尿路悪性腫瘍が含まれるため、西洋医学的にまずこれらを鑑別しておくことが必要である。

漢方の得意とするものは、

排尿痛などの症状を伴う血淋、血尿

『黄帝内経素問』にも、字は異なるが溺血という表現がある。
血淋は膀胱炎、尿路結石などに伴って起こることが多い。

尿血には、顕微鏡的血尿から肉眼的血尿まで多岐にわたる
諸検査で器質的原因のみとめられない腎出血(良性血尿)が、主に漢方の適応となる。



E性欲異常と男性不妊

性欲異常は、
@性欲亢進、
A性欲低下
に分類される。

大部分は性欲低下であり、
血管性、外傷性、内分泌性などの原因の明らかなものは、最初に原疾患の西洋医学的治療を行うとよい。

全体の80%以上を占める心因性インポテンツが、漢方の得意な分野である。
カウンセリングとともに、適切な漢方薬を使用すると、有効例を多数経験できる。

男性不妊症では、一般に体力の低下した(虚証)が多く、体力を増強させるような漢方薬を用いる。



F陰嚢の冷感、陰茎の違和感

『金匱要略』の桂枝加竜骨牡蛎湯の項に、「それ失精家は、小腹弦急し、陰頭寒く・・・」とある。
性欲の衰えている人は、下腹が弓の弦を張ったようにつっぱり、陰嚢が冷える。という意味である。
また、陰部のかゆみ、陰茎亀頭の先端部の不快感、膣口のかゆみ、不快感、
冷えて尿が滲みだしているような感じ、
を訴える人が多い。

このような場合もカウンセリングとともに、適切な漢方薬を使用すると、有効例を多数経験できる。

陰萎、性器神経症ともいわれるような患者さんに、漢方は非常に効果的である。



G腎・尿管疼痛(腎結石症を含む)

腎部疼痛の原因
側腹部から背部にみられ、
慢性の尿路通過障害による水腎症、水尿管症、
炎症による腎実質の膨大、
腫瘍などによる周囲からの圧迫、
腎下垂に伴う尿管の閉鎖など、

これらのほとんどは、西洋医学的処置が優先されるものである。

結石、腎下垂に伴う疼痛は、
突然の尿路の閉塞で腎盂内圧が亢進し、
腎被膜に分布する知覚神経を刺激して生じる激痛で、疝痛とよばれる。
時に嘔気、嘔吐を伴う。
また、腎盂、腎杯などに結石がはまり込み、鈍痛をきたすこともある。

これらは、新薬との併用でより効果的であるが、漢方薬、単独でも有効な場合も多い。

『諸病源候論』示された石淋は、この結石の症状を表している。
「発すれば即ち燥痛して悶絶し、石出ずればすなわち歇む」。



H膀胱炎、尿道炎

最も多いのは、急性、とくに細菌性炎症である。
これらは、まず、抗菌剤で治療をすることが必要である。

しかし、急性でもいったん治療した後に、再発を繰り返す反復性膀胱炎は、漢方薬が非常に効果的である。

反復する原因として、
膀胱機能低下、
尿路通過障害、
異物などの場合は、これらの存在を否定した後に、漢方を行う必要がある。

慢性炎症は、漢方薬の適応である。

*基礎疾患があれば、その治療を優先させる。



I睾丸・副睾丸炎

まず、急性細菌性副睾丸炎、これに併発する睾丸炎は、抗菌剤を投与する。
流行性耳下腺炎のウイルス性睾丸炎も、西洋医学的な基礎治療に、漢方を併用するとよい。

慢性副睾丸炎の細菌性、結核性のものは、抗生物質、抗菌剤での治療を優先させ、
漢方薬は、抗生剤との併用、抗生剤治療後の投与、あるいは消炎酵素剤との併用などで効果的である。

漢方の肝経の湿熱は、多くは淋菌性尿道炎、膀胱炎、睾丸炎などに当てはまるもので、
肝経に沿って抵抗や圧痛が起こるものである。



J急性・慢性腎炎、急性・慢性ネフローゼ

漢方の得意な分野は、
急性腎炎よりも、慢性腎炎の軽度から中等度のもので、
血尿・蛋白尿を呈する状態に対してもっとも効果的である。

組織学的にみると、腎実質には大きな変化がなく、
微少変化型ネフローゼ症候群のように、
免疫機構に障害のある例などが適応となる。

利尿剤やステロイド剤などと、漢方薬を併用すると、より効果的である。
また、これらの新薬から漸次漢方薬への切り替えることで副作用を最低限に抑えることができる。

また、西洋医学の薬剤が有害作用のため使用できない場合は、漢方こそ、その長所を十分発揮されることとなる。

漢方薬としては、柴胡剤、利水剤が王道である。
が、微小循環障害には駆於血剤を併用するとさらによい。
腎炎、フローゼに対する漢方の基本方針は、
古典的な治療理念を尊重しつつ、
必ずしもこれに拘泥せずに、
次々と明らかになっている最新薬理学的情報にしたがって
漢方を応用することが大事となる。



K腎不全

腎前性、腎後性の腎不全に関しては、それぞれの病態に応じた西洋医学的処置が優先される。

腎実績の障害による腎機能障害で、
血中クレアニチン値が7.0mg/dl 程度までの範囲で、漢方による保存的治療を行うとよい。
血圧の管理、食事指導とともに、症状・体質に合った漢方を調合、服用する。

頻用する生薬を3つ上げれば、大黄、丹参、芍薬などが、腎機能を改善さえる生薬である。



L人口透析に伴う愁訴

人口透析は腎不全の治療法の一つとして確立した。
長期に渡る人口透析も可能となったが、その反面、その維持のために、
@貧血改善、
A骨代謝異常の是正、
B降圧
などの症状に、別途、対応する必要があった。

しかし、これら以外にも、人口透析に関連して、さまざまな不定愁訴的な症状が出現してくる。
それらの発生原因に関して、多くの説があるが、確定的なものはなく、対応に苦労しているのが現状である。

この方面に、漢方が、威力を発揮して、非常に効果的である。