漢方薬の特徴とは?
@漢方薬は、お客様の体質や症状を総合的・客観的に診断してから処方を決めます。
素人判断で漢方薬を服用し続けると、効果が現れないばかりか、
かえって体に変調をきたすことにもなりかねません。漢方薬は必ず薬局・薬店でご相談の上お求めください。
A長い歴史と豊かな経験があります
「漢方」とは、中国から伝来してきた医学・薬学の総称です。
その歴史は二千年とも三千年ともいわれ、長い年月をかけて得た貴重な経験が基盤になっています。
B自然を重視します
原料は天然の草根木皮。治療の際も、その人が生来持っている自然治癒力を重視し、
漢方はあくまで、体の回復をバックアップするものという見方をしています。
C全体の調和をはかります
自然治癒力を高めるため、局部的な症状にとらわれず、
カラダ全体のバランスを整えることを重視。
心身のさまざまなひずみを是正するとともに、他の症状も緩和します。
D個人差を大切にします
病名だけで投薬や治療をすることなく、その人の体力や体質を細かくチェックすることから始めます。
その結果、数多くの処方の中からその人に適合する処方が選ばれます。
漢方相談とは?
漢方薬の処方はこうして決める
漢方医学には、西洋医学と異なる観点に立つ独特の病気のとらえ方があり、漢方薬もそれに基づいて用いられます。
ですから、漢方治療の特性を知り、漢方薬を生活の一部として適切に用いていきましょう。
漢方医学では、病気を、生体機能のバランスの乱れとしてとらえる。
漢方医学では、体のどの部分に起きた病気でも、全身の働きに乱れ(生体機能のバランスの乱れ)が生じていると考えます。そこで、まず、患者さんが熱に支配された「陽」の状態であるか、寒さに支配されている「陰」の状態であるかを判別します。また、体力のある「実」のタイプか、虚弱な「虚」のタイプかを診ます。
この「陰・陽・、虚・実」を基本として、生体機能のバランスの乱れをとらえていきます。
処方決定に当たっては、まず、一番気になっている主症状だけでなく、全身の症状やその現れ方などを詳しく聞く必要があります。そのなかで、患者さんが「陰」の状態なのか「陽」の状態なのかなどを判別します。
舌を診たり(舌診)、顔色が青白いか、赤ら顔かを診たりするのも、陰・陽の判定の情報いなります。
さらに、脈がしっかりしているか、弱いかを診たり、腹壁ががっちりしているか、軟弱かを診たりすることによって、虚・実の判定を行ないます。こうした情報の中から、一人一人の患者さんの全身の状態を把握し、バランスの乱れを見極めます。こうして漢方薬の処方を決定します。
漢方医学では、同じ病気・症状でも、患者さんによって用いる処方が違う。
漢方医学では、たとえば胃の病気だから胃を治すというのではなく、乱れを整えることで、全身の働きを整え、人間が本来もっている生体防御システムを駆動させ、自然治癒力を高めます。
ですから、体が冷えて働きが悪くなっている人なら、温めて治していこうとし、暑がっている人なら、冷ましながら正常な状態にもっていこうとするわけです。
したがって、同じ病気、同じ症状のある人でも、一人一人の生体機能のバランスの乱れ方によって、用いる漢方処方は違ってきます。厳密に言えば、誰にでも同じように効く漢方薬はないと言ってよいでしょう。
そこで、漢方は、自身の症状・体質を、できるだけ詳しくお話して、自分に一番合った漢方を調合してもらう、オーダーメイドの漢方薬が一番よいということになります。
陰、陽とは?
陰
寒さに支配されている
・冬に電気毛布を使う
・使い捨てカイロを使う
・冷房がつらい、きつい
・寒さで症状が悪化する
陽
熱に支配されている
・首から上に汗をかく
・冷水を好んで飲む
・顔面が紅潮、眼球が充血
・舌の先が赤い
漢方医学の得意な分野とは?
西洋医学と漢方医学は、それぞれ異なった性格を持ち、得意・不得意があります。
たとえば、早期の胃がんは西洋医学的な検査をしないと見つけることはできませんし、外科手術が必要な病気では、西洋医学が力を発揮します。
一方、検査をしてもこれといった異常はないのに、体の働きが乱れて症状がある場合などは、漢方が得意とするところです。体の内部環境を整えて、西洋医学的な治療をサポートすることもあります。
それぞれの得意分野を知って、いちばん適切な方法を選択し、両者のあわせて病気に対処していくことが、最良の結果をもたらしてくれるはずです。
漢方相談Q&A(こんな相談がありました)
Q:月経不順で、半年も月経がこないです。
まだ結婚しない娘のことで相談します。ここ2〜3年、月経があまりなくて、半年に1回くらいの状態が続いています。
漢方薬で治療できるものなら教えてください。(娘=36歳)
A:娘さんの様子をうかがうと、冷え性ぎみで手足が冷たく、朝がつらいということですから、やや寒さに支配された、パワー不足の状態、漢方でいう「陰」で「虚」の状態かと考えられます。
こうしたタイプの人には「当帰」「芍薬」という生薬を中心とした処方がよく用いられます。胃腸を丈夫にすることも大事なので、「人参」を加えると効果的です。これらを、本人に一番合った形で調合してもらい、1日3回、食前または食間に服用すると、体が温まって、朝の寝起きもよくなり、元気が出てきます。継続的に服用していると、いつのまにか毎月月経がくるようになるという症例を経験しています。
Q:不妊症の悩みです。子宮内膜症があって、また体外受精を予定しています。
卵管摘出、子宮筋腫、子宮内膜症の手術後、体外受精を試みましたが上手くいきませんでした。現在、子宮内膜症が再発してしまい、ホルモン薬を服用しています。また体外受精をする予定ですが、漢方薬を併用して効果を上げることはできませんか?(37歳・女性)
A:体外受精による不妊治療などは、まさに西洋医学の優れたところです。こうした治療は西洋医学にまかせるとして、それがうまく子宮に着床するように環境を整えるのは、漢方が得意とするところです。両方のよいところを合わせたら、最良の結果も望めるのではないでしょうか。ホルモン薬と漢方薬の併用も問題ありません。
この患者さんは、「陰」の状態で、肌はあれやすいほう、便秘傾向はないとのことです。まず「ケイヒ、ゴシュユ」を、君薬として、「トウキ、センキュウ、シャクヤク」を臣薬として調合するのがよいです。さらに「ボタンピ」を加えます。この漢方は、皮膚をうるおしながら、子宮や卵巣などの内部環境を整えていく薬です。2週間ほど使ってみて、なんとなく体が温まり、皮膚の乾燥感がとれてくるようなら、非常によい感じです。しばらく続けて、ご服用ください。
Q:いつも背中は冷たいのに、頭は暑く、汗が出ます。
1年ほど前から、いつも背中が冷たくてゾクゾクするのに、頭は暑くて汗がたくさん出ます。体温は35度くらいで、かぜをひきやすく、胃の働きもあまりよくありません。(61歳・女性)
A:体は冷えるのに首から上だけ暑い、カーッと暑くなったりサーッと冷えたりするというのは、更年期障害によく見られる症状ですが、更年期を過ぎても、こうした状態になることは少なくありません。
全体的にに体力が低下しているようですから、「虚・実」でいえば「虚」の側で、「陰・陽」の間を行き来しているような状態と考えられます。こうした人には、「サイコ」を君薬として、「シャクヤク、トウキ、キジツ」を臣薬とします。さらに、「ブクリョウ、ボタンピ」を加えます。この漢方は、更年期障害に用いられる代表的な処方で、のぼせたり冷えたり、症状が動いているような人には特に効きます。さらに、気分がゆううつで、若干ののぼせ感もあり、冷えるという人なら「コウブシ、ニンジン」も加えます。
Q:やせていて、体力に自信がなく、夏ばてしてしまいます。
身長は168cmありますが、体重は40kgしかありません。体力に自身がなく、夏場など、ばててしまいます。補中益気湯、六君子湯、半夏瀉心湯などを飲んでいますが、よくなりません。(34歳・女性)
A:太れないという悩みをもつ方も、じつはけっこう多いものです。こういう人は、まず、内科を受診して、一度甲状腺機能の検査をしていただきたいと思います。甲状腺の機能が低下しているということなら、薬で甲状腺ホルモンを補充すると、あっさり問題が解決してしまうこともあります。甲状腺機能には問題がないが、それでも太れないということであれば、体力をつける漢方薬がありますので、試してみるとよいでしょう。
ご相談の方がこれまで飲んでいた漢方薬はみな「陽」の状態の人に向く薬ですが、これで、効果が確認できないなら、むしろ「陰」の状態なのかもしれません。「人参」を中心に、「カンキョウ、ソウジュツ、カンゾウ」を加えます。これで、食欲が出て、なんでもおいしく食べられるようになればしめたものです。
Q:現在、妊娠中で、つわりに悩まされています。
本で調べたところ、つわりに漢方薬が効くと書いてありました。ほとんどの人が悩みながらあきらめていると思うので、こんな漢方薬があるなら、教えてください。(27歳・女性)
A:つわりも重症になると、婦人科に入院して点滴でもしなければならない場合もありますが、それほどひどくはないということなら、漢方薬が役に立つと思います。
一番よく効く漢方は、「ハンゲ、ブクリョウ、ショウキョウ」という3種類の生薬を症状・体質に合わせて調合した処方です。さらに「カンキョウ、ニンジン、ハンゲ」という生薬を調合したものも用います。つわりなどによる嘔吐には、脳の中にある吐く中枢が刺激されて起こる「中枢性嘔吐」と、胃の粘膜が刺激されて起こる「末梢性嘔吐」があります。この薬は、その両方を抑制する働きがあり、つわりによく効きます。
一般には、漢方薬は温かくして飲みますが、つわりに用いるときに限っては、煎じ薬を一度冷蔵庫で冷やしたり、氷を入れるなどして、冷たくしてから、1さじずつ飲むようにするのが秘伝です。
Q:長年、ひどい便秘に悩まされ、胃腸も弱くて、冷え性です。
学生のころから便秘がひどく、毎日便は出ても、残便感があります。胃腸も弱く、冷え性です。何度も血液や胃の検査を受けましたが、異常がないといわれました。(29歳・女性)
A:ご相談の方は、冷えがあり、胃腸が虚弱ということですから、「陰」で「虚」の状態でしょう。こうした人には、「ケイヒ、シャクヤク」という生薬を中心とした処方を調合します。この漢方は、腸のけいれんが起きているような便秘に効く薬で、過敏性腸症候群で便秘と下痢を繰り返す人にもよく用いられます。腸のけいれんを抑えながら胃腸の働きを整え、排便を促すもので、体も温まり、冷え性もよくなっていきます。
便秘が強いようなら、これに緩下作用のある「ダイオウ」という生薬を加えます。また、乾燥したコロコロの便が出るようなタイプの便秘には、「ジオウ」「麻子仁」などの生薬を中心とした処方を調合します。これらの漢方は、腸の内容物を軟らかくして腸をうるおす役割をしています。
Q:夏になると、腹痛や下痢を起こし、疲れやすいです。
毎年6月ごろになると、腹痛、下痢、ガスがたまりやすいという状態が続き、体が疲れやすくて、食べても体重が増えません。秋になると落ち着きます。胃腸の検査では、少し胃下垂ぎみということで心配なしということでした。(28歳・女性)
A:ご相談の方は、冬は電気毛布や使い捨てカイロを使い、冷房が苦手という「陰」の状態と、手足に汗をかいたり、冷水を好んで飲むような「陽」の状態が混じっているということでした。しかし、毎年暑い季節になると悪くなるというのは、「陽」の状態が疑われます。胃下垂があって、疲れやすいというのは、「虚・実」でいえば、「虚」の側になります。
こうした人の腹痛や下痢にまず用いる漢方は、「サイコ、ケイヒ」という生薬を中心とした処方です。この漢方は、まさしく、疲れやすい、ストレスを受けやすい、ときどき肩こりや頭痛もある、というような症状の人にぴったりの薬です。
半年くらい前から少しずつ服用していって、6月に備えるというのが一番よいでしょう。
Q:ストレスがあると、胃と頭が同時に痛むことがあります。
ふだんは健康で胃も丈夫なほうですが、ストレスがあると、胃が痛んで、頭痛もしてきます。それぞれ2種類の薬を飲んでいましたが、両方に効く漢方薬があれば、教えてください。(34歳・女性)
A:漢方では、胃と頭が痛むという場合にも、まず全身の状態からみていきます。この患者さんは、冷えもあるし、汗が出て顔面が紅潮したりするという「陰・陽」が混じった状態です。ストレスで胃腸の具合が悪くなると、頭痛が起きるということですから、まず胃腸を丈夫にすると、頭痛もよくなってくると思われます。
こうした場合には、まず「ケイヒ、ニンジン」という生薬を中心とした処方、また「サイコ、ケイヒ」という生薬を中心とした処方がよく効きます。前者は、顔はのぼせるが足は冷える(冷えのぼせ)という人に向く漢方で、さらに頭痛がしたり、下痢しやすい人にも効きます。ストレスがかかるとイライラして怒りっぽくなったり、不安感がある人なら、後者がよいでしょう。
Q:腹部の膨満感に苦しめられています。
10年以上前に喉頭がんで喉頭の全摘手術を受けました。日常生活では支障はないのですが、おなかにガスがたまって、膨満感で苦しんでいます。漢方薬ですっきりさせることはできませんか。(61歳・男性)
A:この方のように喉頭の手術をしたという人でなくても、腹部の膨満感を訴える人は多いものです。これらの患者さんに共通して言えることは、ストレスが関係しているということです。
ガスが多く、おなかが張って困る、少し気分がうっとうしい、食欲も不振であるという人には、「コウブシ、ソヨウ」という生薬を中心として調合します。この患者さんは、現在、コレステロールを下げる薬、不整脈の薬も飲んでいるとのことですが、「ソヨウ」という生薬は、赤ジソの葉のことで、食物のような薬ですから、ほかの薬との併用もまったく問題ありません。その他、ストレスがたまるという人、心身症的な胃腸症状のある人にも、この漢方は、よく効きます。
漢方薬をより効果的に用いるためには、上手な飲み方を知っておくことが大切。
「漢方は、空腹時に飲むのが一番!」
最近の研究によると、漢方薬のある成分は、私たちの腸内にすむ細菌によって分解され、有効な成分になることがわかっています。ほかの食べ物といっしょになると、それだけ分解能力が落ちて、漢方薬の効きめが悪くなります。また、腸から吸収されて血液中に入る率も低くなってしまいます。そのため、漢方薬の効果を十分に発揮させるには、空腹時に飲むのが一番です。
「西洋薬と併用してよい!」
漢方薬は、多くの場合、西洋薬との併用が可能です。
飲み合わせによる問題を防ぐためには、漢方に詳しい医師、薬剤師に相談してください。
一般的に、西洋薬と併用する場合は、時間をずらして飲むようにするとよいでしょう。
「漢方エキス製剤はお湯に溶かして飲む」
漢方は、患者さんの症状・体質に合わせて、生薬を1つ1つ選んで調合する煎じ薬が一番効果がありますが、いろいろな事情から、煎じ薬が飲めない場合、煎じることが困難な場合には、手軽に飲める、インスタントコーヒーのような漢方エキス製剤があります。この漢方エキス製剤も、できれば煎じ薬のようにお湯に溶いて飲んだほうが、本来の効果が発揮されやすいのです。特に冷え症や胃腸虚弱の人は、温かくして飲むことをお勧めしています。