高脂血症
高脂血症の症状
眼瞼黄色腫‐‐眼瞼の上内側にできる黄橙色の斑。高コレステロール血症に多い
アキレス腱肥厚‐‐アキレス腱が太く肥厚したもので、12ミリ以上あれば家族性高コレステロール血症が疑われる
皮膚黄色腫‐‐肘関節、膝関節、手背などに黄橙色の発疹状腫瘤あるいは結節をみることがある
角膜輪‐‐眼球の虹彩(こうさい)の周囲に白色混濁した輪がつくられる。脂肪が沈着しやすい代謝異常状態で多くみられるもので、高齢者でも認められる
腹痛‐‐著しい高脂血症のある場合、急性膵炎による腹痛、あるいは膵炎を伴わない腹部中央の痛みもみられる
合併症
狭心症、心筋梗塞、末梢動脈硬化症、間欠性跛行、脳梗塞、膵炎、脂肪肝、動脈瘤
高脂血症とは?
血清コレステロール濃度が異常に高い状態を高コレステロール血症という。
また、血清中性脂肪濃度が高い状態を高中性脂肪血症という。
そして、これらをまとめて高脂血症と呼んでいる。(総称)
高脂血症では動脈壁にコレステロールが沈着しやすくなり、動脈硬化を引きおこす。
その結果、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの病気がおこる。
中性脂肪が著しく高値の場合には急性膵炎を引きおこすこともある。
動脈硬化を引きおこす要因は、高脂血症のほか、糖尿病、高血圧、肥満、喫煙などがあり、これらを合併している場合にはより注意が必要。
血清コレステロール濃度の正常値は1dl 中
120mg以上、220mg以下、
血清中性脂肪濃度の正常値は1dl 中 40mg以上150mg以下。
この範囲より高い場合を高脂血症、この範囲より低い場合を低脂血症と呼ぶ。
低脂血症は脂肪吸収が悪くなり、下痢や発育障害、貧血、めまいなどの症状が現れる。
その他、まれに、コレステロール、中性脂肪、リン脂質などの脂質の新陳代謝が悪くなり、肝臓や脾臓、体の諸臓器に異常に脂質が蓄積してくる場合もある。
発病の理由
高脂血症を予防し、病気を治していくためには、高脂血症の原因を突き止め、それに応じた治療をすることが必要。
高脂血症の原因には、遺伝体質によっておこる場合と食事やホルモン、肝臓病あるいは腎臓病などが原因でおこる場合がある。
コレステロールや中性脂肪は血液中では蛋白質と結合して、リポ蛋白という形で存在している。
コレステロールが多く含まれているリポ蛋白にはHDLとLDLの二種類がある。
高脂血症のなかでも動脈硬化を引きおこしやすいものは、LDLが増加し、HDLが少なくなった状態。
そのためLDLを悪玉コレステロール、HDLを善玉コレステロールと呼ぶことが多い。
中性脂肪が多く含まれているリポ蛋白にはカイロミクロンとVLDLの二種類がある。
カイロミクロンは小腸でつくられ、私たちが食事から摂取した脂肪を吸収する働きをもっている。
VLDLは肝臓でつくられ、肝臓でつくられた脂肪を全身の諸臓器に運搬する役目をしている。
肝臓は血液中のリポ蛋白を取り込んで分解している最大の臓器で、分解されたものは胆道を通って十二指腸に排泄される。
この肝臓の働きが生まれつき悪い場合には原発性高脂血症となり、さらに胆道閉塞症などの病気があれば続発性高脂血症となる。
〈高脂血症の五つのタイプ〉
T型高脂血症:
中性脂肪を分解する酵素(リポ蛋白リパーゼ)やそれを助ける因子の働きが悪い場合に、カイロミクロンが増加して高中性脂肪血症となる。
Ua型高脂血症:
肝臓へのLDL取り込み機構が障害されて高コレステロール血症を引きおこしたもの。
Ub型高脂血症:
コレステロールのほかに中性脂肪も増加しているもの。
V型高脂血症:
コレステロールの多いVLDLが増加したもの。先天的な体質のほかに、甲状腺機能低下症や糖尿病などの二次的な病気が合併した場合に時々おこる
W型高脂血症:
VLDLが増加し、血清中性脂肪が高値となったものをW型高脂血症という。
X型高脂血症:
このVLDLとともに、カイロミクロンも増加している状態をいう。
飲酒がX型高脂血症の引き金になっている場合がある。
両親、兄弟など血縁者に高脂血症の人がいれば、高脂血症の遺伝体質をもっている可能性がある。
続発性におこる高脂血症としては甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、慢性腎不全、糖尿病などの病気のほか、降圧剤やホルモン剤などの薬による高脂血症もある。
低脂血症は遺伝体質のほか、甲状腺機能亢進症、肝硬変などの病気による場合もある。
発病、発現
高脂血症、低脂血症ともに軽症の場合は無症状で、血液検査によって発見される。
高脂血症が高度であるか、中等度以上が長期にわたって存在する場合に黄色腫が現れる。
黄色腫は皮膚や腱にコレステロールがたまって黄橙色の斑あるいは結節を形成するもので、眼瞼(眼瞼黄色腫)、肘関節、膝関節、手背、臀部などにできやすい。
アキレス腱の厚さはふつうは12mm程度までですが、高コレステロール血症が高度の場合には、それ以上に肥厚してくることがある。
また、虹彩の周囲に輪状に白濁した角膜輪をみることがあり、関節痛も時々みられる。
高中性脂肪血症が高度の場合には腹痛、急性膵炎を引きおこし、脂肪肝を合併していることも多い。
高脂血症が長く続くと動脈硬化が進行し、動脈硬化症状が現れてくる。
動脈硬化症状には、
胸が締めつけられるように痛くなる狭心症、
長く歩くと足が痛くなる間欠性跛行症、
急にめまいがおこる一過性脳虚血発作などがある。
低脂血症の症状としては、貧血、下痢のほかに、ふらつき、歩行障害などの神経症状が多くみられる。
治療法
高脂血症の治療の第一歩は食事療法で、次に運動療法をあわせて行う。
それでも十分な効果が得られない場合に薬物療法を行う。
薬物療法は一種類の薬で不十分な場合には、二剤あるいは三剤を組み合わせて併用する。
薬物療法によっても効果が得られない場合には血漿交換法、体外循環によるコレステロール除去法(LDLアフェレーシス)が行われる。
肝臓移植や遺伝子治療が行われることもある。
二次性高脂血症の場合には高脂血症の原因となっている病気を治療する。
甲状腺機能低下症の場合には、甲状腺ホルモンの投与が行われる。
治療の目標はコレステロールを220mg以下、トリグリセリドを150mg以下の正常域にまで下げること。
コレステロールはLDLコレステロールとHDLコレステロールに分けて測定し、それぞれの血中濃度に対応して治療する。
LDLコレステロールは130mg以下に、HDLコレステロールは40mg以上に維持することが望まれる。
ただし、高脂血症治療薬の一つであるプロブコールは、HDLコレステロールを低下させるが、高脂血症治療に有効。
その場合にはHDLコレステロールの低下は問題にはならない。
血清脂質濃度は数カ月に一回くらいチェックして、治療の効果を判定する。
同時に高脂血症の合併症の様子も調べ、薬物療法をしている場合には、肝機能検査など副作用の検査もしておくことが必要。
狭心症や心筋梗塞などにすでに冠動脈硬化症が進行している人や、
糖尿病を合併していて、動脈硬化の進行が早い人は、
高脂血症に対してより厳重な治療が必要であり、総コレステロール値も200mg以下にすることが望まれる。
〈食事療法の原則〉
@エネルギー摂取量を適正にする
太りぎみの場合は、減量するためにエネルギー摂取量を減らすことが必要。
そのためには一日の摂取エネルギー量を標準体重1kgあたり、30〜25キロカロリーとする。
A食物繊維を十分に摂取する
一日20g程度は最低限必要。
食物繊維の多い食品として、ヒジキ、ワカメ、寒天、干しシイタケ、カンピョウ、切り干し大根、インゲン豆、アズキ、脱脂大豆、キウイ、ブロッコリー、ゴボウ、穀類などがある。
しかし、食物繊維にはカルシウムや鉄、マグネシウムなどのミネラル、ビタミン類の吸収を抑えて、体の機能維持にマイナスの効果もあるので、
ほかの栄養素とのバランスにも注意が必要。
B脂肪の過剰摂取を控え、脂肪酸摂取のバランスに配慮する
脂肪の摂取量は、食事全体の摂取エネルギーの総量に対して、何%を脂肪から摂取することが望ましいかで決められる。
一般的には25%程度が望ましいが、著しい高中性脂肪血症の人は脂肪を減らして20%程度までとする。
高脂血症T型の高カイロミクロン血症の人は脂肪摂取量をもっと減らして、MCTミルクにおきかえる。
このことは低コレステロール血症の状態で脂肪を食べると下痢をしやすい場合でも同様。
牛乳や肉には飽和脂肪酸が多く、
植物性油脂にはリノール酸系(n‐6系)の多価不飽和脂肪酸が含まれ、
魚にはEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などのn‐3系多価不飽和脂肪酸が含まれている。
また、オリーブ油や豚肉には一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸が含まれている。
これらの脂肪酸を良いバランスに保つには、その人の体質によって多少違いがある。
一般には多価不飽和脂肪酸1に対して、飽和脂肪酸は0.7ないし1とし、一価不飽和脂肪酸は1ないし1.5とする。
多価不飽和脂肪酸の中ではn‐6系が4ないし3に対し、n‐3系が1程度の割合になっていることが望まれる。
高脂血症の人ではEPAやDHAを一般の人より多く摂取することにより、血清脂質の低下がみられる。
ただし、多価不飽和脂肪酸は過酸化物をつくりやすいため、これらを多く含む食品については流通、保存、調理に気をつけなければいけない。
古くなったものはかえって健康障害の原因となる。
また、多価不飽和脂肪酸を多めに摂取する場合には、ビタミンEやビタミンC、β-カロチン、ポリフェノールなど抗酸化物質も多めにとって、過酸化脂質の生成を防ぐようにすること。
C食事中のコレステロールを減らす
健康な人は、肝臓でコレステロールの合成量を調節することにより、多めにコレステロールをとっても、体の中にコレステロールがたまりすぎないようにできるが、
高脂血症体質の人では、この調節機能が不十分なため、コレステロールを多く摂取すると、体の中にコレステロールが蓄積してしまう。
したがって高脂血症体質の人では、1日のコレステロール摂取量を300mmg程度までに制限が必要。
動脈硬化がすでに進行している高コレステロール血症の人では、一日のコレステロールの摂取量を150〜250mmgまで制限する必要がある。
D糖質は砂糖や果糖などをできるだけ減らして、でんぷん質を摂取するようにする。
二糖類や単糖類は高中性脂肪血症を増悪させやすいので、とくに耐糖能異常を示す人では制限をしなければならない。
糖質は主要なエネルギー源であるため、高分子のでんぷん質を利用して補う。
Eアルコールの摂取量を適正にする
アルコールが生体内で利用されるエネルギー量は約5キロカロリーとされている。
アルコールのとりすぎはエネルギー摂取量過剰となるほか、家族性高中性脂肪血症体質の人では、著しい高中性脂肪血症が引きおこされるので節酒が必要。
F動物性蛋白質と植物性蛋白質をあわせて摂取する
一般にはそれぞれ同じ量ずつ摂取することをすすめる。
植物性蛋白質や魚の蛋白質はコレステロールを低下させる働きがある。
食塩の摂取量を低めに抑えることは重要。
一日あたり8g以下程度とする。
とくに高血圧を合併している人はできるだけ低くする。
〈運動療法〉
運動量と運動の種類は各個人の状態に応じて決める必要あり。
高脂血症から冠状動脈硬化症が進行している人は、急激な運動は逆効果な場合が多い。
心臓機能や肝機能などから全身状態を把握して適切な運動を決める必要がある。
一般には有酸素運動が好ましいため、少なくとも10分以上継続した運動を毎日、20分以上行う。
速歩、ジョギング、自転車、水泳、エアロビックダンスなどが例としてあげられる。
〈薬物療法〉
高脂血症治療薬のおもなもの
@スタチン剤(コレステロール合成酵素の阻害剤)
プラバスタチン(メバロチン)、シンバスタチン(リポバス)、フルバスタチン(ローコール)、セリバスタチン(バイコール、セルタ)、アトルバスタチン(リピトール)など、
強力なLDLコレステロールの低下作用がある。
副作用として肝機能障害や筋肉障害がある(注意)
Aプロブコール(シンレスタール、ロレルコ)
コレステロール低下作用と抗酸化作用があり、黄色腫が縮少する。
HDLコレステロールは低下するが心配ない。
Bコレスチラミン(クエストラン)、コレスチミド(コレバイン)
コレステロール低下剤として用いられる。
本剤は吸収されないため子どもにも使用される。
飲みにくいことが欠点で、また便秘もしやすくなる。
Cクロフィブラート系製剤
フェノフィブラート(リパンチル)、ベザフィブラート(ベザトール)などがある。
中性脂肪が高い患者さんに主として使われる。
副作用で肝機能異常、筋肉障害、胃腸障害をおこす人もいる(注意)
時々検査を受けながら治療をすすめる必要がある。
腎機能の低下している患者さんに副作用があらわれやすい。
Dニコチン酸製剤
ニセリトロール(ペリシット)、その他の薬剤がある。
コレステロールと中性脂肪を低下させるのに用いる。
副作用として顔面紅潮作用がある。
Eその他
パントシン、エパデール、アルテス、MDS、EPL、ウルソなど
高脂血症薬として発売されている。
体質に応じて使い分けが必要。
高脂血症の程度とタイプおよび各個人の体質、合併症などによって、薬物をうまく選択する必要がある。
一般的には、単剤で用いるが、効果が不十分な場合には、二剤または三剤が併用される。
同じ薬物を長期に続けるか、途中でほかの薬物に変更するかは、各個人の効果と反応によって決める必要がある。
高脂血症の対処の方法
年齢、高脂血症の程度、高脂血症以外の合併症の有無などで対処の仕方が違う。
両親、兄弟に同様の病気の人があれば同じような体質であると推定される。
若いときに心筋梗塞や突然死になった人が血縁者にいる場合には注意。
十分な治療を早く受けるため、専門医師に相談すること。
病気の程度は血液検査を受けなければ判定できないので、定期的に医師に相談することが必要。
中性脂肪(トリグリセリド)の値が1dl あたり1000mmg以上ある場合には、急性膵炎を引きおこす恐れがあるため、食事療法をはじめることが必須。
高脂血症は遺伝素因、環境因子、内臓機能の変化などで引きおこされるが、
食事療法はいずれの場合も共通して重要な治療法である。
とくに自分での注意、家庭での生活が治療に重要な役割を占めている病気である。
高脂血症を治し、動脈硬化を予防していくためには、望ましい体重を維持することが必要。
太りぎみの人は減量します。
望ましい体重は各個人の体質によっても違うが、25歳頃の体重が一つの目安となる。
一般には身長を基準として標準体重を求め、標準体重をもとに一日に摂取するエネルギー量を決める。
栄養所要量では成人のエネルギー量は体重1kgあたり37〜38キロカロリー程度とされていますが、減量のためには体重1kgあたり25〜30キロカロリーとすること。
例えば、40歳代、168cm/65kgの男性は、一日2400キロカロリーが栄養所要量の基準ですが、太りぎみの場合は、これを1500〜1800キロカロリー程度とする。
減量に際して注意しなければいけないことは、体組織を維持していくために必要な栄養素まで減らしてしまわないこと。
カルシウムや鉄などのミネラル、ビタミン類は必要量を確保しておくこと。
糖質、脂質、蛋白質の三大栄養素では蛋白質を減らさないようにすることが必要。
成人男子では一日70g、女子では60g程度摂取することが望ましい。
減量効果を高めるために適切な運動を体に合わせて行う。
自分の判断でいきなり激しい運動をはじめることは突然死を引きおこすおそれがある。お勧めできません。
食事のとり方にも関係があり、減量のために一食を抜くのではなく、一日三食ほぼ一定した時間に摂取することとし、よくかんで食べること。
食物繊維はエネルギー源とならないため、食事摂取量を減らす場合に重要なものである。
また、コレステロール低下作用や、ブドウ糖の吸収抑制、大腸がんなど消化器疾患の予防にも有効なもので、積極的にとるようにする。
高脂血症の食事療法はその人の高脂血症のタイプによって違う。
高コレステロール血症の人では、体内のコレステロールの調節がうまくできないため、コレステロールの多い食品は控えるようにする。
飽和脂肪酸の多い食品もコレステロールを高めるので控えめにする。
コレステロールが含まれていない植物性食品の割合を多くすることにつながる。
中性脂肪が高い人は、まず、アルコールの量を減らすことが必要。
あまり夜遅くまで飲食するのを控える。
動物性脂肪は中性脂肪を高くしますが、魚油はむしろ低下作用があるため、一方に偏ることのないようにすること。
糖分の多い食品も肝臓で中性脂肪の合成を増加させるので、過剰とならないように注意する。
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